農地を手放したいと思っても、様々な制限や規制があります。
1. 宅地などと扱いが同じではない?
昭和27年7月15日に公布された農地法に基づいて、国が農地制度を管理しています。
農地法は、民法の特別法として、民法で定める「所有権絶対の原則」「契約自由の原則」の例外を規定しています。
2. 農地以外に向けることの規制
農業生産に欠かせない農地は、国民や地域のための限られた共通の資源です。
農地の効率的な利用は、国民への食料の安定供給の確保が基本的な目的です。
このため、農地を効率的に利用する耕作者には、権利を取得しやすいよう配慮される一方で、農地を農地以外のものに向けることが規制されています。
3. 農地は、原則「農地として」維持しなければならない
農地についての権利を持つすべての人は、農業を行うために、適正かつ効率的な利用を確保しなければならない義務を負っています。
農地は、所有権や賃借権のほか、使用権、収益権などの権利を設定することができます。
自ら耕作できない場合も、所有権以外の権利を利用して、農地として適正かつ効率的に利用されるようにしなければなりません。
4. 農地を所有できる人や組織
だれでも農地を所有できるわけではありません。
所有できるのは、一定以上の農業を営む個人(農家)、農事組合法人や株式会社などのうちで一定の要件を満たす「農地所有適格法人(農地法第2条第3項)」に限られています。
5.農地の権利移動(貸借や売買)、農地以外への転用は許可制
農地の権利移動や転用は、農地法により制限されています。
貸借や売買、宅地などへの転用は、基本的に、それぞれ農業委員会(3条許可)または都道府県(4条許可・5条許可)の許可を得る必要があります。
なお、面積によっては、国の許可が必要な場合もあります。
いずれも、許可の申請は、市町村の農業委員会への提出が必要です。
賃借や売買などの法律行為が成立していても、許可がなければ、所有権移転登記などの法律上の効力を完成させることができません。
(1) 農地のままでの権利移動は、第3条
(2)転用を目的とする権利移動は、第5条
(3)権利移動を伴わない転用は、第4条
なお、農地法で定める農地には、採草放牧地も含まれますが、農地の制限と多少異なります。
(1)採草放牧地のままでの権利移動や、農地への転用を目的とする権利移動は、第3条
(2)宅地などへの転用を目的とする権利移動は、第5条
(3)権利同を伴わない転用は、制限がありません
6. 農地のまま貸借や売買するための「3条許可」
(1) 対象になるものとならないもの
許可が必要な行為は、農地法第3条第1項本文で規定されています。
「農地又は採草放牧地について、所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権その他の使用収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転」する場合が該当します。
ただし、時効取得、相続、権利放棄、法人の合併などは、「権利の設定」や「移転」に該当しないため、規制の対象ではありません。
なお、農業委員会への届け出が必要です。
(2) 「3条許可」がいらないもの
農地法の第3条第1項ただし書には、許可が必要ないものも規定されています。
国や県の権利取得、土地改良法や農用地利用集積計画による権利の設定移転など、法律に基づいて行われる、権利の設定や移転、交換分合などは、通常の許可は不要です。
このほか、遺産分割による権利の設定移転(相続)や、農地中間管理機構などの農地売買事業や農地貸付信託、農地中間管理権の取得などの場合は、許可がいりません。
また、遺言書による包括遺贈や特定遺贈による権利の設定移転も、許可が不要です。
つまり、遺言書によって相続する場合も、許可がいりません。
なお、相続や、法人の合併・分割、時効取得等により、許可を要さずに農地の権利を取得した場合は、取得からおおむね10カ月以内に、農業委員会に届出書を提出する義務があります。
未届けや虚偽の届出は、10万円以下の過料に処せられる場合もあります。
(注)
特定遺贈は、包括遺贈は財産の割合を指定する方式で、特定遺贈は財産を指定する方式。
6. 自分で利用するために転用する場合の「4条許可」
(1) 「4条許可」が必要な行為
権利の移動がない、つまり、自分が使用するために、農地以外に振り向けたい場合が該当します。
(2) 「4条許可」を必要としない行為
国や県、市町村が、法律に基づいて転用する場合や、農業に必要な道路や施設を設置する場合、公共施設の建設の場合などは、許可が必要ありません。
また、「市街化区域内の農地」であれば、あらかじめ農業委員会に届け出て転用する場合は、4条の許可は必要ありません。なお、審査があります。
そのほか、自己の農地の利用や保全に必要な水路や農道などの施設への転用、2アール未満の農業経営施設に転用する場合も必要ありません。
7. 権利の移動を前提として転用する場合の「5条許可」
(1)「5条許可」が必要な行為
譲渡を目的として、農地を農地以外に振り向けたい場合が該当します。
(2)「5条許可」を必要としない行為
国や県など地方自治体が、法律に規定される施設を建設する場合や、法律に基づき転用する場合、公共施設への転用などは、許可が必要ありません。
また、「市街化区域内の農地」であれば、あらかじめ農業委員会に届け出て転用する場合は、許可は必要ありません。ただし、審査があります。
8. 転用して登記するためには「転用確認証明書」が必要
農地の地目変更登記を行うためには、農業委員会が転用した事実を確認した「農地の地目変更登記にかかる転用確認証明書」を発行してもらう必要があります。
(1)4条許可(自己用の転用)
4条許可を受けた方は、目的とする建物などの工事を完了させた後に、農業委員会に申請書を提出します。
証明書は、農業委員会が現地調査を実施し、許可内容と相違ない転用事実が確認されれば、発行してもらうことができます。
(2) 5条許可(権利を移動)
5条許可を受けた方は、権利の移転や設定を、地目変更の登記申請と分離して行います。
① まず、都道府県から発行される許可指令書によって、所有権の移転または賃借権などを設定するための登記申請を行います。
② 地目変更手続きは、4条許可の場合で同様、5条許可を受けた工事が完了した後で、申請によって発行してもらうことができる「農地の地目変更登記にかかる転用確認証明書」により、手続きを行います。
(3) 市街化区域内の農地
地目変更登記申請は、農業委員会への届出により転用した場合も同様で、工事完了後に申請して転用確認証明書を発行してもらい、手続きを行います。
9. 農地法の許可申請の代行ができるのは、行政書士
農地法第3条、第4条、第5条など農地法の許可申請は、行政書士が申請者の委任を受けて行うことができます。
なお、行政書士ではない者が他人の依頼を受け、報酬を得て官公署に提出する書類を作成することを業とすることは、行政書士法違反となります。
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