申告と納税は、遺産を引き継いだ方、個人個人が対象です。
個々の税額の計算手順について、具体例をもとに紹介します。
なお、被相続人や法定相続人などについては、以下が前提です。
税額は、個々の相続人が受け取った財産の額に基づいて課税されることが基本です。
実際の計算に当たっての計算手順は、
(1) まず、相続税の対象となる財産の額を計算し、
(2) 次に、財産を法定相続分によって分割したものとして個々の相続分を計算し、相続税の合計額を求めます。
(3) 最後に、税の総額を、実際に受け取った額の割合によって、相続した個人個人に割り振って求めます。
順番に確認しましょう。
(1) 相続税の対象額を計算
以下のように、計算式に当てはめ、課税される財産の額を計算します。
① 本来の財産額を計算
まず、本来の財産を計算します。
なお、土地は小規模宅地の特例が適用されるため、ここで80%減額後の金額を当てはめます。
「本来の財産」= 土地 + 家屋 + 預貯金 + その他
= 1,000万円 + 2,500万円 + 3,500万円 + 0
= 7,000万円
② 課税価格を計算
「課税価格」
= 本来の財産 + みなし財産 + 生前贈与 - 非課税財産 - 債務 - 葬式費用
= 7,000万円 + 5,000万円 + 0 - 3,000万円 - 300万円 - 200万円
= 8,500万円
ただし、みなし財産は、死亡保険金と死亡退職金の合計額です。
みなし財産 = 死亡保険金 + 死亡退職金
= 2,500万円 + 2,500万円
なお、非課税財産については、死亡保険金と死亡退職金には一定の課税対象外となる額が定められています。
ともに「500万円×相続人の数」までは課税対象になりません。
非課税財産 = 死亡保険金 + 死亡退職金
= 500万円 X 3名 + 500万円X 3名
= 3,000万円
つまり、みなし財産のうち、課税対象となるのは2,000万円です。
③ 相続税の対象額を、基礎控除を差引いて計算
課税価格から基礎控除を差引けば、その残額で課税されるかどうか判断できます。
・課税価格 < 基礎控除
この場合は、税金はなく、申告も必要ありません。
・基礎控除 = 3,000万円 + ( 法定相続人 × 600万円 )
= 3,000万円 + 1,800万円
= 4,800万円
控除額は、定額3,000万円に、600万円×法定相続人の数を加えて計算し、合計4,800万円です。
・相続税の対象額 = 課税価格 - 基礎控除
= 8,500万円 - 4,800万円
= 3,700万円
この結果、対象となる額は、3,700万円であることが分かります。
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山下一郎さんが残した財産は、
自宅7,500万円、預貯金3,500万円、死亡保険金と退職金で5,000万円、負債が300万円ですから、差引1億5,700万円です。
小規模宅地等の特例やみなし財産の控除、基礎控除が差し引かれることから、相続税の対象になる財産の額は3,700万円と、大きく減額されることが分かります。
(2) 相続税の総額を計算
① 課税対象となる財産の総額を、法定相続分で分割
対象となる財産を、妻1/2、長男1/4、長女1/4の法定相続分で分けます。
総額3,700万円ですから、妻が1,850万円、長男と長女は、それぞれ925万円となります。
法定相続分 = 3,700万円 × 相続分(割合)
妻 = 3,700万円 × 1/2 = 1,850万円
長男 = 3,700万円 × 1/4 = 925万円
長女 = 3,700万円 × 1/4 = 925万円
② それぞれの法定相続分に対する税額を計算
それぞれの法定相続分に税率をかけ、個々の税額を計算します。
個々の税率は、相続税の速算表から当てはめます。
税率は、1,000万円以下で10%です。
1,000万円を超え3,000万円以下は15%ですが、この場合は50万円の控除を差し引くことができます。
相続額は、妻が1,850万円、長男と長女がそれぞれ925万円です。
それぞれの税額を計算します。
それぞれの税額 = 法定相続分 × 税率-控除
妻 = 1,850万円 × 15%-50万円=228万円
長男・長女 = 925万円 × 10%- 0 =93万円(それぞれ)
なお、1万円未満は四捨五入します。
③ それぞれの税額を合計して「相続税」の総額を計算
全員の税額を合計すると、相続税の総額になります。
総額 = 妻228万円+長男93万円+長女93万円
= 414万円
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相続税の合計額は、それぞれに法定相続分で分けたとして計算します。
(3)実際に受け取った割合で、合計の税額を配分
最後に、相続税の合計を、それぞれが実際に受け取った額の割合で配分します。
ここで計算された額が、個人個人の相続税です。
① 受け取った額の割合を求めるために、全員が受け取った財産の課税価格を合計
妻の受け取った額 = 土地 + 建物 + 死亡退職金 - 葬式費用
= 1,000万円 + 2,500万円 + 1,000万円 - 200万円
= 4,300万円
長男 = 預貯金 - 負債
= 3,500万円 - 300万円
= 3,200万円
長女 = 死亡保険金
= 1,000万円
三人の受け取った額は8,500万円で、課税価格と一致します。
② 受け取った財産の割合
それぞれが受け取った額をもとに、個々の割合を計算します。
割合の合計が1.0になるように、小数点第ニ位で端数を調整することができます。
端数の調整については、相続人どうしで決定します。
妻 = 4,300万円 ÷ 8,500万円 = 0.50(端数切り捨て)
長男 = 3,200万円 ÷ 8,500万円 = 0.38(端数切り上げ 長女 = 1,000万円 ÷ 8,500万円 = 0.12(端数切り上げ)
③ 相続税の総額をそれぞれの受け取った割合で配分
相続税の総額414万円を、相続人が受け取った額の割合で分割します。
妻 = 414万円 × 0.50 = 207万円
長男 = 414万円 × 0.38 = 157万3千円
長女 = 414万円 × 0.12 = 49万6千円
です。
なお、千円未満は切捨てます。
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相続した人「それぞれの最終的な納付税額」は、受けられる控除があれば差引いて計算します。
適用可能な控除があれば、相続人ごとの税額から差し引けば、最終的な納付税額を計算できます。
なお、亡くなった方の配偶者、両親や子ども「以外」の場合は、計算した税額に20%を加算したあとの金額から、税額控除を行います。
つまり、兄弟や姉妹などは、相続税が増額されます。
(4)それぞれの控除
① 配偶者控除
配偶者は、少なくとも1億6千万円の税額軽減を適用することができます。
このため、山下さんの妻の納税額は、ゼロです。
ただし、適用を受けるためには、申告が必要です。
長男と長女には、控除の適用がありません
したがって、納税額は計算どおり、長男が157万3千円、長女が49万6千円です。
② そのほかの控除
配偶者控除のほか、「暦年課税分の贈与税額控除」、「未成年者控除」、「障害者控除」などがあります。
当てはまるものを順番に差引いていき、税額がゼロになった場合は終了します。
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